最後の台詞

三人姉妹互いに寄り添って立つ。

マーシャ まあ、あの楽隊のおと! あの人たちは発って行く。一人はもうすっかり、永遠に逝ってしまったし、わたしたちだけここに残って、またわたしたちの生活をはじめるのだわ。生きてい行かなければ・・・・。生きて行かなければねえ。・・・

イリーナ (あたまをオーリガの胸にもたせて)やがて時が来れば、どうしてこんなことがあるのか、なんのためにこんな苦しみがあるのか、みんなわかるのよ。わからないことは、何ひとつなくなるのよ。でもまだ当分は、こうして生きて行かなければ・・・・働かなくちゃ、ただもう働かなくてはねえ! あした、わたしは一人で発つわ。学校で子供たちを教えて、自分の一生を、もしかしてわたしでも、役に立てるのかもしれない人たちのために、捧げるわ、今は秋ね、もうじき冬が来て、雪が積もるだろうけど、わたし働くわ、働くわ。・・・・

オーリガ (二人の妹も抱きしめる) 楽隊は、あんなに楽しそうに、力づよく鳴っている。あれを聞いていると、生きて行きたいと思うわ! まあ、どうだろう! やがて時がたつと、わたしたりも永久にこの世からわかれて、忘れられてしまう。わたしたちの顔も、声も、なんにん姉妹だったかとかいうことも、みんな忘れられてしまう。でも、わたしたちの苦しみは、あとに生きる人たちの悦びに変って、幸福と平和が、この地上におとずれるだろう。そして、現在こうして生きている人たちを、なつかしく思い出して、祝福してくれることだろう。ああ、可愛い妹たち、わたしたちの生活は、まだおしまいじゃないわ。生きて行きましょうよ!楽隊は、あんなに楽しそうに、あんなに嬉しいそうに鳴っている。あれを聞いていると、もう少ししたら、なんのためにわたしたちが生きているのか、なんのために苦しんでいるのか、わかるような気がするわ。・・・・それがわかったら、それがわかったらね!

桜の園・三人姉妹チェーホフ 神西清訳 新潮文庫より

縦書き台本は↓

三人姉妹チェーホフ

短編オーディション
 タララ・ブーンビャー、路傍の石に腰掛けて
若い女 マーシャです、まあ、聞いてよ、あの楽隊! あの人たちは発っていく。一人はもう永久に帰ってこない。わたしたちだけがここに残ってまた人生を始めるのね。生きなければ・・・・生きて行かなければ
次はイリーナ、時が来ればわかるわよ、なぜこうなったのかも・・・・(しだいに、思いもかけず、感情がこもり熱が入っていく)・・・・なんのために苦しむのかも。やがてすべてが明らかになるわ。だけどそれまでは生きていかなくちゃ・・・・働くのよ、ひたすら働くこと!あしたわたしは一人で立つ。学校で教えて、わたしを必要とする人たちのために一生を捧げる。今は秋、もうすぐ冬が来れば一面の雪野原ねえ。わたしは働くわ、働く・・・やめましょうか?
 (小声で)つづけて。
若い女 オリガです、楽隊はあんなに明るく勇ましい、生きようって!ああなんてこと!やがて時がたつと、わたしたちもこの世から去って、みんな忘れられてしまう、顔も、声も、きょうだいの数もみんな。でもわたしたちの苦しみは、このあとの人たちには喜びに代わって、地上には幸せと平和が訪れるでしょう。そうなればきっと、ここに生きていた人のことを思い出して祝福してくれるでしょうよ。ああ妹たち・・・・もう少ししたらわかりそうよ、なぜ生きるのか、なんのために苦しむのかも・・・・でも、いまそれがわかれば、いまわかったらねえ・・・・(静寂)ありがとうございました。満足しました・・・・・おかげさまで幸せです、とっても・・・・ごめんなさい